当院では、人工歯根を骨に埋め込む「歯科インプラント治療」の優れた機能性や、骨と結合する技術の進歩を十分に認知した上で、あえてインプラント治療を行わないことにしました。
一般的なインプラントの「成功率(初期の定着率)」の高さは科学的に証明されていますが、当院が最優先しているのは、数年〜10年程度の短期的な安定ではありません。患者様が人生の最期を迎えられるその日まで、本当にトラブルなく安全であり続けられるかという「生涯の予後」です。
生体材料学、臨床医学、超高齢社会を見据えたとき、当院がこの結論に至った理由は主に3つあります。
1. 歯科医師の手技術ではコントロールできない「生物学的限界」
天然の歯は、強固な防御壁(歯根膜や繊維結合)で守られており、お口の中の無数の細菌が骨の内部へ侵入するのを物理的に防いでいます。 しかし、インプラントは骨とは結合するものの、歯茎との結合が非常に弱く、「体外(細菌が生息するお口)」と「体内(本来無菌であるべき骨の内部)」が常に緩い隙間で直通しているという構造的な宿命(弱点)を抱えています。 そのため、ひとたび細菌感染(インプラント周囲炎)が始まると、天然歯の数倍のスピードで骨の崩壊が進行します。これはどれほど精密に手術を成功させても、構造上、生涯にわたり内在し続けるリスクであり、万が一発症した際の完全な除菌やリカバリーは現代の歯科医学をもってしても極めて困難です。
2. 患者様の「経年変化(老化・免疫低下)」に対する医療者としての責任
インプラント治療の本当の試練は、治療時ではなく、10年、20年後に患者様がご年齢を重ねられた時に訪れます。 将来的に「手が不自由になる」「認知症を患う」「寝たきりになる」といった状況や、全身疾患による「免疫力の低下」が起きた際、それまで維持されていたお口のセルフケアや細菌バランスは一転して崩壊します。 ご自身での高度な清掃や通院ができなくなったインプラントは、お口の中で「制御不能な重篤な感染源」へと変わり、誤嚥性(ごえんせい)肺炎などの全身の命に関わるリスクにつながるケースが、近年の介護・訪問診療の現場で厳しく指摘されています。当院は、患者様がどのようなライフステージになられても、最後まですべての責任を負える治療のみを提供すべきだと考えています。
3. 「削らないジルコニアカンチレバー接着装置(RBFDPs)」と「精密保存」への特化
インプラントという選択肢を持たないからこそ、当院は「今ある天然歯をいかに抜かずに残すか」という精密な保存治療にエネルギーを注いでいます。 万が一、歯を失ってしまった場合でも、両隣在歯が健全で咬合に問題がないと判断される場合、当院では隣の健全な歯を大きく削る従来のブリッジは行いません。 当院では、歯の表面(エナメル質)をわずか0.5mm程度精密に調整して固定式の歯を補う「ジルコニアカンチレバー接着装置(RBFDPs)」を提案しています。これは、両隣の歯を削るのではなく、隣接する『たった1本の歯』の表面に高強度なジルコニアを強固に接着する、高度な低侵襲接着補綴です。 これにより、お口の中に将来的な感染リスクのある異物を埋め込むことなく、かつ削る範囲も極限まで抑えながら、確実な噛み合わせを再構築することが可能です。 また、欠損が広範囲に及ぶ場合でも、残った歯に過酷な負担をかけず、将来患者様が寝たきりになられた際にも容易に取り外して完全な清潔を保てる「超精密な金属床義歯(入れ歯)」を設計いたします。
10年の便利さよりも、30年後の確実な安全を
インプラントは素晴らしい一面を持つ治療ですが、万が一のトラブル時や、将来的な身体の変化に伴うリスクがあまりにも大きく、医療者がコントロールしきれない側面を持っています。 医療の原点である「第一に、患者様に害を与えてはならない」という原則に基づき、当院は「その時だけの利便性」ではなく、「生涯にわたる安心」を選びます。 患者様の体に無理な負担をかけない、生物学的にクリーンで安全な歯科医療をお届けすることをお約束いたします。
【インプラント治療をご希望の方へ】 当院は「天然歯の保存」および「精密な自費補綴・義歯」に特化した自由診療専門の歯科医院です。インプラント治療に関しては専門外(対象外)の領域となるため、特定の医療機関や専門医のご紹介・ご推薦は一律で行っておりません。 患者様の生涯に関わる重要な治療だからこそ、当院の管理が及ばない他院での治療に対して、中途半端なご紹介をすることはかえって不誠実であると考えております。何卒ご理解いただけますと幸いです。
